2010年05月20日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 2606 count

面白ショートショート『八王子の8人の王子』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 むかしむかし。

 八王子には8人の王子がいました。

 しかし、彼らの心配は遺産相続でした。王子が8人もいたのでは、1人1人の取り分が少なくなってしまいそうです。

 そこで骨肉の争いが勃発しました。

 8人は多すぎる、と考える者は多かったので、そうやって人数を絞ることはみんないいことだと考え、反対する者はほとんどいませんした。

 しかし、それで死者が出るのも面白くないと考えた王様は一計を案じました。

 「これから橋をかけるのだ。その働きを見て優秀な者に遺産を相続させよう」

 1人目は素晴らしい設計図を引きました。

 2人目は素晴らしい礎石を用意しました。

 3人目は強固な鉄骨を用意しました。

 4人目はきめの細かい砂利を用意しました。

 5人目は長持ちする特上のセメントを用意しました。

 6人目はそれらを輸送する鉄道を用意しました。

 7人目は資材を保管する倉庫を提供しました。

 8人目は資材を保全する警備隊を組織しました。

 王様は、必要な準備が全て整ったことに満足しました。

 「それで橋はいつ完成するのかね?」

 8人の王子は顔を見合わせました。誰も、橋の建設という汗臭い仕事に従事する気はなかったのでした。

 「では全員落第。遺産は9人目に渡そう」

 「我ら8人兄弟だったはずでは?」

 「これから作るのだ」

 王様は愛人28号を呼ぶと、王子達を下がらせました。

(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦